閑話その九

               江戸へ行きたし・・・・なし




さて今宵はなにをお話しいたしましょうかの


そうそう、江戸行きのことで奥と一悶着あり申しての、それをお話ししょう


拙者の息子 ひろ之進も、今年で大学三年生でござる。早いもんで御座るな月日の経つのは



今度、全藩学生剣道大会に出るそうな。雲国斎どのもお喜びじゃろうて


拙者も久しぶりにひろ之進の試合が見とうなっての〜、なにせ国体の試合以来見ておらんから


の、よし奥に頼んでみるといたそうかの


しかし奥は、しぶちんで御座るからの、必ず


「金子などございません」と言うにきまっておる


江戸行きの旅費もばかにならぬでの。拙者のお小遣いではちと心細い



その夜、夕餉の後に意を決して言い申した


「あ〜これ奥、ちと話しが」

「金子はございません」

「やっぱし」


「まだ何も言っておらんではないか」


「いいえ、あなたが何か話があると言うときは、金子以外

 ありません


「するどいの」

「えっ、なにか」

「いや〜どうじゃろうの、その〜久しぶりに、ひろ之進の

 試合を見に行きたいのじゃが」

「なりませぬ

「つめたいやつじゃの、ひろ之進が試合に出るというのに」

「友人の奥様にビデオを頼んであります」

「ビデオか〜 ビデオではの〜」

「それで我慢なさいませ、

 あなたのような田舎者で、そのうえ無類の助平が

 江戸などにいって無事にすむとは思いませぬ。

 どうせ
歌舞伎町あたりでおねえちゃんと遊んでくる

 のがおちです」

「するどいの]

「来年になさいませ、わたくしも一緒に行ってあげます」

「そちと一緒にか」

「なにかご不満でも」

「めっそうもない」


奥と一緒に行くのは気が進まんの〜


なにせ試合中に念仏を唱え始めるからの〜 ぶつぶつと


しかたがない今回は諦めるといたそう、ビデオで我慢するとしよう。


暫くしてビデオが送ってき申した。


拙者
愕然と致した


「なんじゃ こりゃ」

試合が始まるや否や左拳を高くあげその構えから打突、それが一本になっておる。


それと抜き胴を打った後1回転・・・・・これも一本?????


他の試合場も映っていたのでみてみると・・・・同じであった


あれで刃筋がたつのかの〜 とぶつぶつ言いながら見ておると奥が


「なにをぶつぶつおっしゃってるの、独り言を言い出すと

 歳をとった証拠と言いますわよ」

なにを申すか拙者より年上のくせに」

「さ、もう一回巻き戻して見ましょう」


「また見るのか」

「そ、もう一回 きゃーひろ之進の突きが決まりましたわ」


「わかっておる、さっき見たばかりじゃ、さ、もうよかろう」

「ねえ、もう一回」

「もう一回もう一回って大きな声でいうでない。

 ご近所に聞えたらあの夫婦はよほどの す・・・・・」


「えっ、なにかおっしゃって?」


「なんでもないわい、また明日じゃ明日」


「もう〜けち」

「けちはそちであろうが」

それから数日間は奥の「ね〜もう一回」がご近所中に聞こえていたに違いない









                       
ではまた明晩






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